私はこどものときから
いろいろな雑誌や新聞で
幾つもの月の写真を見た
その表面はでこぼこの火口で覆はれ
またそこに日が射してゐるのもはっきり見た
后そこが大へんつめたいこと
空気のないことなども習った
また私は三度かそれの蝕を見た
地球の影がそこに映って
滑り去るのをはっきり見た
次にはそれがたぶんは地球をはなれたもので
最后に稲作の気候のことで知り合ひになった
盛岡測候所の私の友だちは
──ミリ径の小さな望遠鏡で
その天体を見せてくれた
亦その軌道や運転が
簡単な公式に従ふことを教へてくれた
しかもおゝ
わたくしがその天体を月天子と称しうやまふことに
遂に何等の障りもない
もしそれ人とは人のからだのことであると
さういふならば誤りであるやうに
さりとて人は
からだと心であるといふならば
これも誤りであるやうに
さりとて人は心であるといふならば
また誤りであるやうに
しかればわたくしが月を月天子と称するとも
これは単なる擬人でない
宮沢賢治
恵文社一乗寺店、「リトルプレス」のコーナーで紹介されている『エミリ・ブロンテのピアノ』。その世界を表現した小さな展示会がただいま開催されています。
挿絵を担当してくださったイシイリョウコさんの原画やエミリブロンテの人形展示、ポストカードも販売しています。
書店奥の壁面スペースにて開催。9月1日〜9月30日まで。
恵文社一乗寺店
スタッフ日記(こちらにも詳細が掲載されています2009/09/06付の日記にて)