ヒルデガルトの音楽 ~ 中世と現代を結ぶ神秘 ~
2024年 01月 29日12世紀の修道女、聖ヒルデガルト(1098~1179)
私にとっては数多くの聖歌を残した作曲家として、とても興味深い聖女。
ある文献より、その霊性を書き出してみたい。
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ヒルデガルトの霊的中心にあるのは、Caritas、つまり聖なる〈知恵〉と神の〈愛〉と呼ぶヌミナス(神的)な形姿である。
彼女は神学者であり女子修道院長であり霊的なカウンセラーであり医師でもあった。
12世紀、ライン川沿いのビンゲンにあるベネディクト会の女子修道院の院長ヒルデガルトのもとには多くの群衆が好奇心または敬虔な気持ちから訪れ、予言や祈りを求めていた。
訪れた人は彼女に対する確かな見解は持てなかったが、「見えざる輝きで照らされていた」と語る。
ヒルデガルトは謙虚な人で、自身を「ego panoercula feminea forma 」(貧しき小さな女の形)と呼んでいた。
それゆえ彼女は神のはしためで「あらゆる被造物の上でつつましく高められた」マリアにたとえられた。
彼女の崇拝者にとってヒルデガルトはまさに社会的、さらには宗教的にも真理の生きたあらわれであった。
ヒルデガルトは一人の女性として、自分は教会の中で教えたり預言したりする「権利」があるとは決して仄めかすことがなかった。
男性たちとの平等を主張したり要求することもなかった。
ヒルデガルトの使命とは、聖書の神秘の扉をあけて、救いの道をはっきりと示すことであった。
また当時権利に甘えていた司祭たちや高位聖職者たちに警告し、神の人々に教え諭すことであった。
なぜなら「知恵あるもの者と力ある者」が女性たちよりはるかに低いところに落ちてしまっていたからである。
ヒルデガルトの一生に関する情報は異常なほどに完全である。
なぜならこの聖人によって、あるいは聖人に宛てて書かれた何百もの手紙が残っているから。
ヒルデガルトは貴族である両親の10番目の子供。
兄弟の一人はマインツ大聖堂の合唱指揮者、姉妹の一人はヒルデガルトの修道院で修道女に。
ヒルデガルトは高貴な生まれの在俗修道女に育てられ、彼女からラテン語を教わり詩篇を学んだ。
その後の教育は一人の修道士に委ねられ、彼は彼女の生涯にわたる友人、腹心の友、秘書となった。
修道女、修道院長になったヒルデガルトは最初の著書「道を知れ」を書き始める。
「子供時代の早くから自分の魂の中に幻を見ており70歳を超える現在も続いている。
この幻の中で私の魂は神の御心のままに天へと昇っていき、さまざまな人々のあいだで自分自身を広げる。
それから私はたえず病気に悩まされ痛みがあまりにも激しいので死んでしまいやしないか心配になる。
けれど神様はいままで私を支えてくれる。
私が見ます光は空間的なものではなく太陽を運ぶ雲より明るい。
その光を私は「生ける〈光〉
の反映」と呼んでいる。
見たものは一瞬で記憶にとどめる。
私には教育がなくただ読み方を教わっただけ。
私が書くことは、幻の中で自分が見たり聞いたりすること。
聞いたとおり以外の言葉は思いつけない。
そしてこの幻のなかで語られる言葉は人間の口から発される言葉のようではなく、輝く炎、あるいは晴れ渡った空に浮かぶ一片の雲のようなもの。
時々、この光の内部にもうひとつの光が見え、私はそれを「生ける〈光〉」と呼んでいる。
それを見ているあいだは、悲しみや苦しみがすべて私から離れている。
ですからその時は自分が年老いた女ではなくて無垢な少女のように感じられる。
しかしたえず病気に苦しめられているので、私に啓示される言葉や幻を書くのに疲れてしまうことも。
とはいえ魂がそれらを味わい、見つめると、私は変えられてしまい、苦しみや悩みは全部忘れてしまう。
この幻のなかでいろいろな物事を見たり聞いたりしますと、私の魂はそれらをまるで泉からのようにごくごく飲む。
その泉は常にあふれていてつきない。
私の魂から、私が「生ける〈光〉の反映」とよぶあの光が奪われることはない。
その光のなかに私は自分がたびたび語るいろいろな事柄を見て、文通する人々に返事を書くのです。」
1175年、ヒルデガルト(77歳)からギベール.ドゥ.ガンブルー宛ての手紙より
次にヒルデガルトの音楽性について。
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ヒルデガルトは、音楽を特に共同体の中で、また自らの信心の中で最重要としていた。
アダムが失った天使の声を取り戻すために神を賛美する音楽を奏でる。
天の祖国の賛歌の甘美さを思い起こすために音楽がある。
アダムの声は天使たちのものに似ていたが、楽園と共に失われ、預言者たちの霊感のおかげで歌と音楽を通して困難ながら取り戻された。
「魂はシンフォニーである」
神の賛美のために一日七度繰り返される歌う祈りの時。
修道生活の一日のリズムに音楽がある。
体は生きた声を持つ魂の衣服。
賛美の歌は聖霊によって天上的な調べに基づいて教会の中に根を下ろしている。
音楽の神が人間の体に造られた霊の息吹 … それがlaudes 。
魂はシンフォニー的な要素を持つ。
「聖性のフルート、賛美のギタラ、諸徳の女王である謙虚のオルガン」
楽器は本来、「神の賛美」に用いられる。
ヒルデガルトは沈黙より歌を大切とする。
賛美の美しさを神から奪ってはいけないと。
なので歌より沈黙の重きを置く司祭との間に確執が。
ヒルデガルトは主のために敬虔に戦った。
現世を好まず、毎日、現世から逃れ、キリストと共にいることを望んでいた。
享年82歳。
死後、さなざまな色に輝く二つの虹が天に現れ広がった。
この光の中で赤々と輝く十字架が見えた。
次々に増大して巨大なものになり、そのまわりに無数の輪が現れその中に輝く小さな十字架が。
このしるしによりヒルデガルトに注がれた神の光を信じることができたと修道女たちは語った。
レジーヌ・ペルヌー 著「ビンゲンのヒルデガルト―現代に響く声」より
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ヒルデガルトの音楽は「12世紀のものでありながら20世紀を先取りしている」と、ある文献に書かれていた。
ヨハン・ヨハンソンの「Odi et Amo」とヒルデガルトの「caritas Abundat in Omnia」
心惹かれる二人の音楽を聞きそれを実感。
中世と現代が音楽で繋がっている神秘 …
今、私が最も好きなヒルデガルトの歌い手はEmilyD'Angelo。
アレンジも素晴らしく。